喘息プログラマー(IT業界サバイバル3 〜敗者復活戦〜 中編)

喘息プログラマー

目次

  1. 不夜城
  2. 氷の女王
  3. ファブリーズ事件

不夜城

なんと召還された現場はお客様、すなわち今回のシステム開発の依頼者が居る自社ビルでした。

そこにKさんはじめ、共に1次フェーズを戦った仲間たちがいるとのことで合流することになったのです。
詳しくは書けませんが依頼者は日本を代表する大企業で、自社ビル内にはコンビニや飲食チェーン店が入っており、ドラマに出てくるような受付嬢がいるところでした。

依頼者が居る会社本社 ここに召還された

一次受け(SIer)

二次受け(Kさんの所属する会社)

三次受け(私の所属する会社)

※悪しきSES多重下請け構造


「とんでもない所に来てしまった」

Kさんの部隊はフロアの隅に陣取り15人ほどに増えており、2次フェーズの要件定義を行っていました。厳密に言うとKさんの上にいる一次受けSIerメンバーが召集され、2次フェーズで実装する新機能の要件定義に追われていたわけです。

毎日要件定義書の書きっぷりをチェックされて会議だらけ。ソースコードなんて1文字も書きません。
要件定義とはシステム開発で最も重要な部分であり、各機能をサブファンクションとして分けて、業務を知る有識者の指導のもとチームごとに分担して定義書を書いていきます。

そして1日中電気が消えないのです。これがどういうことを意味するのか、分かる人には分かると思います。

大企業はホワイトである。
そんなの幻想です。

これから就活しようとしている若者たちはY○utubeの情報に左右されず、インターンなどを利用して現実を見るべきです。
自分の目で確かめないと正確な情報は得られないのです。

氷の女王

本社ビルには本当に多くの人が働いていました。IT業界のあらゆる職種が集まっていましたね。
ITは男社会と思われがちですがそんなことありません。男社会というのは一昔前の話で、バリキャリと呼ばれる女性社員達がノートPCを片手に各フロアを縦横無尽に駆け回っていました。まさにドラマの一風景です。

Kさんと私が所属する15名の部隊には13Gという名前が付いていました。
部隊を率いるのは、一次受け会社から飛ばされてきた若き3人のSE戦士たち。私と10以上歳が離れていました。
歳が離れている上長の指示に従うのはSESの世界では日常茶飯事です。よって古い考えを持ったおじさん達にはとても辛い世界でしょうね。

私はそういったことを気にしないので早い段階でSE戦士たちと仲良くなりました。もちろん敬語を使います。
基本的にはSEと呼ばれる人たちはコードを書きません。要件定義や設計専門です。
なのでプログラマーの気持ちが分かるSEはあまり居ません。そういった、頭でっかちのSEとうまくやっていくことがSESの世界では重要だったりします。

SEはプログラムを書けないかもしれませんが、頭脳とコミュニケーション力が優秀なケースが多いです。特に大きなプロジェクトに派遣されるSEは優秀な人が多いです。歳は関係ありません。
SEにもセンスがあり、優れたSEというのは頭の回転が速いです。

そんなSEたちに指示を出す人が、プロジェクトの頂点でありシステム開発の全責任を取るプロジェクトマネージャー(PM)です。
あとに記述しますが、なんとこの現場ではPMが2人切られて3人目はラスボスクラスが出てきました。
それほど過酷なプロジェクトだったのです。

プロジェクトマネージャー(PM)
システムエンジニア(SE)
プログラマー(PG)
ときたら、
最後は依頼者(顧客、クライアント、ユーザーさんなど呼び方いろいろ)
です。

プロジェクトを管理するPMと若きSE3人に対して業務要件を伝える重要な役として、依頼者の会社は13G部隊にとんでもないウェポンを送り込んできました。
いわば依頼者の要望を伝える分身であり、事実上のプロジェクトを取り仕切る支配者です。その支配者(依頼会社所属の正社員)は30代の女性でした。

初めてその女性、いや氷の女王を見たとき、彼女はレモン色のスーツとハイヒールを履いていました。

よくオーラを感じるという話を聞きますが、後にも先にも仕事で感じたのはその女性だけです。圧倒的な自信と、仕事中に見せる冷酷な視線は一切の妥協を許さない睨みがきいたものでした。

そんな氷の女王が見せるアフターシックスの姿は

酒乱

二重人格と言っても過言ではない、別の人格が酒の場に君臨し、その場にいるすべてのプロジェクトメンバーを圧倒するのです。
ある者はトイレに逃げ込み、ある者は終電がと嘘をついて立ち去る始末。

氷の女王にとって昼間は仮の姿。様々なプレッシャーに耐えて己の感情を封じ込め、沈着冷静に任務を遂行していく。そのストレスは常人の域を超えたものであり、その反動があの人格を呼び寄せるのかもしれません。

私はその人格が乗り移った彼女に頭をモミクシャにされました。
もちろん彼女はそんなこと覚えていません。

私にとって氷の女王の下で仕事した1年間は忘れられないものになったことは言うまでもありません。今でも鮮明に覚えています。
あそこまで分かりやすく酒で人格が変わる人は、後にも先にも彼女だけです。

ファブリーズ事件

ある日、13G部隊のいる島周辺が臭いというクレームが氷の女王より発せられました。
すぐさまPMから指示が出ました。

「毎日お風呂に入ってください」

まさかこのレベルの指示が出るとは思ってもいませんでした。
私たちは幼稚園児でしょうか。
ある意味ハラスメントです。

なぜこんな指示が出たかというと、おそらくメンバーの黒いスーツの肩に付いていた白いフケが原因です。

SESで清潔面や匂いの問題はあるあるです。どこでもあり得ます。
殆どが隠密で解決していくのですが、このプロジェクトは違いました。

なんと、4本のファブリーズが投入されたのです。
フロア内に入る際に13G部隊のメンバーは必ず全身にシュッシュするのです。

人権侵害

ハラスメントどころではありません。
まさにSESの闇です。

どれほどの人が傷ついたでしょうか。
その日から私は男性用香水を使い始めたことを言うまでもありません。


こうして氷の女王の完全なる支配の下、13G部隊は日に日に疲弊していきます。

そして、
プロジェクトの進行に陰りが見えたとき、あいつらがやって来たのです。

つづく

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